公開講演会「明治の教科書ガイド『独(ひとり)案内(あんない)』のページをめくる—英語学習法のヒントを探して—」
INFORMATION
日本で英語学習が始まったのは今から約200年前のことです。江戸時代後期、イギリスの軍艦が長崎港に現れ、フェートン号事件と呼ばれる騒動が起こります(1808年)。その翌年、対応策として幕府が通詞(通訳兼貿易官)に英学修業を命じたことが始まりです。当時は長崎・出島でのオランダ貿易が続いており、前線で働くオランダ語に通じた「蘭通詞」が、英語のできるオランダ人から学び始めたのです。
オランダ限定であった西洋との関係は、ペリー来航に伴う開国(1854年)で英米へと広がり、英語の重要性が高まります。明治の学制や学校令により学びの制度が整っていく中、学校や独学で学ぶ人が増加し、「英学ブーム」が訪れます。当時は英米から輸入された児童向け読本を教科書とし、その参考書「独案内(ひとりあんない)」が多数出版されました。独案内のページをめくると、各英単語にカナ、訳語、数字、記号などが添えられ、未知の英語の発音や、日本語による理解を容易にする工夫が施されています。現代の「教科書ガイド」に相当し、こっそり使う人も多かったことでしょう。
本講演では、明治の教科書や独案内の実物をご覧いただきながら、そのページの中に「入門者が外国語を学ぶ斬新な方法」を見出し、当時の、そして現代の英語学習法へのヒントを探ります。さらに、年代の異なる独案内の比較から、発音や訳読の方法がどう変化し、現代の英語学習に影響したかを考察していきます。
講演に続く第二部では、幕末明治期以降の英単語集研究をリードする若き研究者・熊谷允岐氏との対談、そしてフロアとの対話を通じ、日本人が英語をどう学び、その学習効果をどう高めようとしたかを考えていきます。
講師
県立広島大学生物資源科学部地域資源開発学科教授、日本英語教育史学会副会長
馬本 勉(うまもと つとむ) 氏
広島大学大学院教育学研究科学習開発専攻博士課程後期修了。博士(教育学)。比治山大学現代文化学部言語文化学科助教授、広島県立大学経営学部助教授、2020年より県立広島大学生物資源科学部地域資源開発学科教授。
専門は英語教育史。編著書に、馬本勉(2014)(編著)『外国語活動から始まる英語教育:ことばへの気づきを中心として』あいり出版(全252ページ)〇第4章「語彙と辞書」,付録「日本英語教育史年表」「学習指導要領指定語」を担当[pp.i-iii, 61-75, 200-(最近10年間)252]、研究論文に馬本勉(2024)「英文資料に見る宮島案内の史的研究(2): A Short Guide to Miyajima and Neighbourhood, 3rd edition(1918)を中心に」『宮島学センター年報』7, などがある。2014年度より検定教科書『Vivid English Communication I, II, III』第一学習社の編集に携わる。
司会、対談者
茨城大学講師、本学英語教育研究所特任研究員
熊谷 允岐(くまがい まさき) 氏
本学大学院異文化コミュニケーション研究科異文化コミュニケーション専攻博士課程後期課程修了。博士(異文化コミュニケーション学)。
研究論文熊谷允岐(2024)「『官許英和通語』の系譜(2)—『英和語学独案内』を含む二大系統における明治中期以降の変遷—」『日本英語教育史研究』(日本英語教育史学会)第39号,17-37頁.など多数。